感動した詩動作 シュペルヴィエル 安藤元雄訳 その馬はうしろを振り向いて 誰もまだみたことのないものを見た。 それからユーカリの木の蔭で 牧草をまた食べ続けた。 それは人間でも樹でもなく また雌馬でもなかったのだ。 葉むらの上にざわめいた 風のなごりでもなかったのだ。 それは もう一頭の或る馬が、 二万世紀もの昔のこと、 不意にうしろを振り向いた ちょうどそのときに見たものだった。 そうしてそれはもはや誰ひとり 人間も 馬も 魚も 昆虫も 二度と見ないに違いないものだった。大地が 腕も 脚も 首も欠け落ちた 彫像の残骸にすぎなくなるときまで 「中学校国語3から」 |